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東京地方裁判所 平成4年(ワ)1147号 判決

原告

大野光敏

大野定

原告ら訴訟代理人弁護士

河嶋昭

被告

株式会社正久

右代表者代表取締役

足立博

右訴訟代理人弁護士

坂原正治

斎藤陽子

主文

一  被告は、原告らに対し、金一六七万四二四一円及びこれに対する平成四年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、金七三一万四二四一円及びこれに対する平成四年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外大野ヨシ(以下「ヨシ」という。)は、昭和六三年七月八日、訴外マナテック株式会社(以下「マナテック」という。)に対し、自己所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を次の約定で賃貸した(以下「本件(一)の契約」という。)。

(一) 賃貸借期間 昭和六三年七月八日から平成三年七月七日までの三年間とする。ただし、期間満了の六か月前までに賃貸人・賃借人協議による合意の基に更新することができる。この場合、賃借人は、賃貸人に対し更新料として新賃料の一か月分を支払う。

(二) 賃料 一か月八五万〇五〇〇円

共益費 一か月四万九五〇〇円

(三) 右支払方法 毎月末日限り翌月分払

(四) 保証金 四二五万二五〇〇円。保証金は本契約終了時に賃料の二か月分を償却する。

2(一)  被告は、昭和六三年七月八日、ヨシに対し、本件(一)の契約に基づきマナテックの負担する一切の債務について連帯保証した(以下「本件連帯保証契約」という。)。

(二)  その際、ヨシと被告は、本件(一)の契約が合意更新された場合においても、被告の右債務は存続する旨合意した。

3  ヨシは、平成二年一一月二三日死亡し、相続により、原告らは、本件建物の共有持分権(持分各二分の一)を取得し、本件(一)の契約の賃貸人たる地位を承継した。

4(一)  原告らは、平成三年七月三日、マナテックに対し、本件建物を賃貸し、次のとおり定めた(以下「本件(二)の契約」という。)。

(1) 賃貸借期間 平成三年七月八日から平成六年七月七日まで

(2) 賃料 平成三年七月八日から平成四年七月七日まで一か月九四万円、同月八日から平成五年七月七日まで一か月九七万円、同月八日から平成六年七月七日まで一か月九八万円

共益費 一か月六万円

(3) 右支払方法 毎月末日限り翌月分払

(4) 保証金 四九〇万円

(5) 予告期間 賃借人は、原則として、(1)の賃貸借期間内においては本契約の解約を行わない。契約終了時または賃貸借期間内に、やむをえぬ事由があって本契約を解除しようとするときは、賃貸人または賃借人は、いずれも相手方に対し六か月前までに書面によりその予告をして本契約を解除することができるものとし、予告があった日より六か月を経過した日をもってこの契約は終了する。賃借人は、右の予告期間を明示することなく契約を解除するときは、六か月分の賃料を損料(以下「予告期間損料」という。)として支払わなければならない。この場合、賃借人は契約終了まで貸室を使用すると否とにかかわらず、賃料及び費用等の支払い、並びにこの契約一切の義務を履行しなければならない。

(以下、右(5)の条項を「予告期間条項」という。)

(二)  本件(二)の契約は本件(一)の契約を更新したものである。

5(一)  マナテックは、平成三年七月一五日、原告らに対し、本件建物を同月末日限り明け渡す旨の申入れをし、原告らは右申入れを承諾した。

(二)  右(一)の場合にも、予告期間条項の適用があり、マナテックは予告期間損料五六四万円の支払義務がある。

6  よって、原告らは、被告に対し、連帯保証契約に基づき、左記金員の合計七三一万四二四一円及びこれに対する訴状送達の日の後である平成四年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(一) 平成三年六月分の賃料・共益費・消費税(以下「六月分賃料等」という。)の合計九二万七〇〇〇円の内六六万七五〇〇円

(二) 平成三年七月分の賃料・共益費・消費税(以下「七月分賃料等」という。)の合計一〇〇万六七四一円(一日から七日までの二〇万九三二二円〈旧賃料等分〉と八日から三一日までの七九万七四一九円〈新賃料等分〉との合計)

(三) 予告期間損料五六四万円

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、(一)は認めるが、(二)は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実のうち、(一)は知らないが、(二)は争う。本件(一)の契約においては、保証金は本契約終了時に賃料の二か月分を償却するものとすると定められているところ、原告らとマナテックは右償却をしたのであるから、本件(一)の契約は平成三年七月七日をもって終了したというべきであり、本件(二)の契約は本件(一)の契約とは別個の新たな契約である。

5  同5の事実のうち、(一)は知らないが、(二)は争う。予告期間条項は、期間の定めのある賃貸借における解約権留保の合意を定めたものであり、一方的な解約権の行使の場合に適用されるべきものであるところ、本件の場合はマナテックの債務不履行による解除ないし合意解約であるから、その適用はない。

三  抗弁

1  解除(七月分賃料等〈旧賃料等分の一部と新賃料等分〉及び予告期間損料の請求に対し)

(一) マナテックは、平成三年五月分と六月分の賃料の支払を遅滞し、その支払いのために振り出した約束手形も支払期日(平成三年七月五日)に決済できず支払の延期を要請したり、同月二日には手形の不渡りを出しており、その経営・信用状態は相当悪化していて、将来も誠実に債務を履行する見込みはなく、マナテックの債務不履行による賃貸借契約の即時解除が認められる状況にあった。しかし、原告らは、右状況を知悉しながら、マナテックの虚言を軽信し、同月三日、被告に告知することなく、保証金及び賃料を手形で受け取って安易に本件(二)の契約を締結した。被告は、同月五日、原告らからマナテックの賃料不払の事実等を知らされて、原告らに対しマナテックの債務不履行を理由に賃貸借契約を解除するように警告したが、原告らは解除しなかった。その結果、本件(二)の契約は契約締結後一週間足らずで破綻した。

(二) 右(一)の事情のもとにおいて、保証契約の一方的な解除が認められるべきであり、被告は、原告らに対し、平成三年七月五日口頭で、また、同月一〇月頃到達した書面で、本件連帯保証契約を解除する旨の意思表示をした。

2  信義則違反(七月分賃料等〈新賃料等分〉及び予告期間損料の請求に対し)

1(一)の事情のもとにおいては、本件(二)の契約に基づく債務についての連帯保証債務履行請求は信義則に反し許されない。

3  相殺(六月分賃料等及び七月分賃料等〈新賃料等分〉の請求に対し)

(一) マナテックは、本件(一)の契約に基づき、保証金として四二五万二五〇〇円を預け入れ、賃貸借契約の終了に伴い、平成三年八月本件建物を原告らに明け渡した。

(二) 被告は、原告らに対し、平成五年三月一二日の本件口頭弁論期日において、(一)の保証金返還債権をもって、本件請求債権の内八七万六八二二円(六月分賃料等の内六六万七五〇〇円と七月分賃料等の内旧賃料等分二〇万九三二二円との合計)とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、マナテックが、平成三年五月分と六月分の賃料の支払いを遅滞し、その支払いのために振り出した約束手形も支払期日(平成三年七月五日)に決済できず、支払の延期を要請したこと、マナテックが同月二日手形の不渡りを出したこと、原告らとマナテックが本件(二)の契約を締結したこと、原告らがマナテックの債権不履行を理由とする賃貸借契約の解除をしなかったことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、(一)は認める。

五  再抗弁(抗弁3(一)に対し)

1  原告らはマナテックに対して次の債権等を有していた。

(一) マナテックが平成二年六月二日本件(一)の契約を同年一二月一日限り解約する旨の申入れをなしたが、その期日近くになって撤回したため、マナテックがその頃原告らに対し支払うことを約束したことによる違約金四二万五〇〇〇円

(二) 平成三年五月分の賃料・共益費・消費税(以下「五月分賃料等」という。)九二万七〇〇〇円

(三) 六月分賃料等九二万七〇〇〇円

(四) 七月分賃料等一〇〇万六七四一円(旧賃料等分二〇万九三二二円、新賃料等分七九万七四一九円)

(五) 本件(一)の契約に基づく保証金の償却費一七〇万一〇〇〇円

(六) 本件(一)の契約に基づく更新料九四万円

(七) 予告期間損料五六四万円

2(一)  原告らとマナテックは、本件(二)の契約の際、本件(一)の契約の保証金四二五万二五〇〇円から、1(五)の金員を控除し、(六)の金員の弁済に充当し、右保証金残金一六一万一五〇〇円を本件(二)の契約の保証金の一部に充てることを合意した。

(二)  原告らは、民法四八九条の規定により、右(一)の一六一万一五〇〇円をもって、1(一)の金員、(二)の金員、(三)の金員の内二五万九五〇〇円に充当する。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実のうち、(一)は知らない、(四)の七月分賃料等のうちの新賃料等分七九万七四一九円、(六)、(七)は否認し、その余は認める。なお、契約終了による保証金の償却費と更新料を同時に取得することは許されない。

2  同2の事実のうち、(一)は否認し、(二)は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、2(一)、3の事実は当事者間に争いがなく、同2(二)の事実は〈書証番号略〉により認められる。

二請求原因4について

〈書証番号略〉及び原告大野光敏(以下「原告光敏」という。)本人尋問の結果によれば、請求原因4(一)(本件(二)の契約)の事実が認められる。

そこで、本件(二)の契約の性質について検討するに、本件(一)の契約の賃貸借期間の終期は平成三年七月七日であること、本件(二)の契約は同月三日に締結され、その賃貸借期間の始期は同月八日であることは前記のとおりであり、〈書証番号略〉によれば、本件(一)の契約の条件と本件(二)の契約のそれは賃料・共益費の額、保証金の額・償却額、更新料支払約定以外は同一であることが認められ、以上の事実によれば、本件(二)の契約は本件(一)の契約を更新したものと認めるのが相当である。

ところで、本件(一)の契約において「保証金は本契約終了時に賃料の二か月分を償却する。」と定められていることは前記一のとおりであり、〈書証番号略〉及び原告光敏本人尋問の結果によれば、原告らとマナテックは本件(二)の契約の際右償却をしたことが認められるが、「保契約終了時」との表現などからして、右償却分は本件(一)の契約の賃貸借期間中の償却費と解することができるから、右約定及び償却の事実があるからといって、前記判断は左右されない。

三請求原因5について

1  〈書証番号略〉、証人足立昭の証言、原告光敏本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、マナテックとの間に、昭和六二年四月から平成二年五月三一日まで取引(売掛金、資金援助のための貸付金)があり、同日当時、被告に対し、マナテックは四億四五三六万円余の貸金債務、その役員である宍戸透(代表取締役。以下「宍戸」という。)・宍戸英子・宍戸拓はその連帯保証債務を負担しており、右債務者四名は同年六月五日限り右債務を弁済する旨の公正証書が平成二年五月三一日作成された。次いで、平成三年二月頃、豊島簡易裁判所において、右債務者四名は、被告に対し、右債務について、同年五月から毎月二〇〇万円宛支払う旨の調停が成立したが、一回も支払われなかった。

(二)  マナテックは、平成二年六月二日、本件(一)の契約を同年一二月一日限り解約する旨の申入れをなしたが、同年一〇月末頃になって撤回し、損害を与えたため、その頃、原告らに対し違約金(以下「解約撤回違約金」という。)として四二万五〇〇〇円を支払うことを約束した。

そして、マナテックは、解約撤回違約金四二万五〇〇〇円、五月分賃料等九二万七〇〇〇円、六月分賃料等九二万七〇〇〇円の支払を怠り、その支払のために平成三年六月一九日約束手形(支払期日平成三年七月五日、金額二二七万九〇〇〇円。以下「A手形」という。)を振り出し、次いで、七月分賃料等の支払を怠り、平成三年七月三日にその支払のために約束手形(支払期日平成三年七月三一日、金額九七万六六七〇円。以上「B手形」という。)を振り出し、その間の平成三年七月二日には一回目の手形不渡りを出し、同月四日には、資金繰りがつかないため、原告らに懇請して、A手形について依頼返却の手続をとってもらった。

(三)  原告らは、平成三年七月三日、マナテックとの間で、本件(二)の契約(更新契約)を締結し、その保証金四九〇万円のうち、一六一万一五〇〇円については本件(一)の契約の保証金の残りを充て、残金三二八万八五〇〇円については約束手形(振出人マナテック、支払期日平成三年八月五日、金額三二八万八五〇〇円。以下、「C手形」という。)を受け取った。

原告らは、右更新にあたり、マナテックに対し、契約書に連帯保証人の署名をもらってくることを再三求めたが、もらってこなかったため、本件(一)の契約の、合意更新された場合においても連帯保証人(被告)の債務は存続する旨の約定で処理しようと考え、契約書に被告の署名がないまま本件(二)の契約を締結し、被告は右更新のことを知らなかった。

原告らは、右更新することに不安はあったものの、宍戸から、マナテックはサンスターとの間に業務提携の話を進めており、それがまとまれば全て解決でき、その見通しがある旨の説明を受け、それを信用した。

(四)  原告光敏は、平成三年七月五日、宍戸とともに、被告方を訪れ、被告に対し、五月分賃料等及び六月分賃料等の支払が遅滞しており、その支払のために振り出した手形(A手形)について依頼返却の手続をとったことを告げ、マナテックが支払わないときは被告において支払うよう求めたが、被告は、同原告に対し、被告がマナテックに多額の債権を有していることを告げて、右求めには応じられない旨答えた。そして、宍戸が本件(一)の契約を更新したい趣旨のことを述べた際には、被告は、それに反対し、宍戸に対し本件建物を明け渡すよう勧告したが、宍戸も原告光敏も既に更新契約を締結したことを言わなかった。また、被告は、原告光敏に対し、宍戸のいうサンスターとの業務提携の話しは信用できない旨告げた。

そして、さらに、被告は、同日夜、原告光敏に対し、A手形を呈示し、マナテックとの賃貸借契約を解除するよう求めた。

(五)  被告は、平成三年七月一〇日過ぎ頃、原告光敏に対し、書面をもって、五月分賃料等、六月分賃料等、同原告が今後被る損害について保証人としての責任を負わない、同原告において至急マナテックとの賃貸借契約を解除するように、と通告した。

マナテックは、平成三年七月一五日、原告らとの間で、同月三一日限り本件建物を明け渡す旨の期限付合意解除をしたが、その際、原告らとマナテックは、予告期間損料のことについては何ら触れなかった。そして、マナテックは、同月三一日二回目の手形(B手形)不渡りを出し、銀行取引停止処分を受け、C手形も不渡りとなって事実上倒産し、本件建物を同年八月明け渡した。

(六)  本件(一)の契約及び本件(二)の契約には、賃料及び費用等の支払いを二か月怠ったとき、不渡りがあったときは、賃貸人は、無催告で、賃貸借契約を解除できる旨の定めがある。

以上のとおり認められ、〈証拠判断略〉。

2  前記1(五)に認定のとおり、原告らとマナテックは、平成三年七月一五日、マナテックが同月末日限り本件建物を明け渡す旨の期限付合意解除(以下「本件合意解除」という。)をしたものである。

そこで、本件合意解除の場合に予告期間条項の適用があるか否かについて検討するに、一般に、予告期間条項のような条項は、期間の定めのある賃貸借において解除権を留保するとともに、その解除権を行使して一方的に解除をする場合に関する約定であると解されること、原告らにおいて合意解除の場合に予告期間条項の適用があるという認識はなかったこと(原告光敏本人尋問の結果により認められる。)、本件合意解除の際原告らとマナテックは予告期間損料のことについて何ら触れていないこと(前記1(五)のとおり)、本件合意解除の直前ころ、マナテックは多額の負債を抱え、その経営状態は極めて悪化しており、銀行取引停止処分・事実上の倒産は避けがたい状況にあり、また、約定ではマナテックの債権不履行による賃貸借契約の解除が可能な状況にもあったところ、被告から保証責任を負わない旨の通告を受けたり、マナテックの実情を知るに及んで、原告らにおいても、賃貸借契約を終了させた方がよいとの考えになり、本件合意解除をしたこと(前記1に認定の事実により認められる。)等を考慮すると、本件合意解除の場合には、予告期間条項の適用がなく、原告らにおいて、予告期間損料を請求することはできないと解するのが相当である。

四抗弁1について

被告は、原告らに対し、平成三年七月五日と同月一〇日頃に、本件連帯保証契約を解除する旨の意思表示をした旨主張するが、ヨシが死亡し、原告らが本件建物を共有(持分各二分の一)し、賃貸人たる地位を承継したことは前記一のとおりであるから、被告において、右契約を解除するにあたっては、原告ら両名に対し、解除の意思表示をする必要があると解されるところ、〈書証番号略〉及び証人足立昭の証言によれば、右五日当時も一〇日頃当時も、被告において、原告大野定が賃貸人であることを知らなかったことが認められるから、いずれのときも、同原告に対して解除の意思表示をしたものとは認められない。したがって、抗弁1は、その余の点(抗弁1(一))について判断するまでもなく、採用できない。

五抗弁2について

前記三1に認定の事実関係のもとにおいて検討するに、本件(二)の契約締結当時、マナテックは多額の負債を抱え、その経営状況は極めて悪化しており、右契約前日には一回目の手形不渡りを出し、解約撤回違約金・五月分賃料等・六月分賃料等の合計二二七万九〇〇〇円の債務の履行遅滞があったのであるが、他方、本件(二)の契約締結当時、原告らは、マナテックの経営が楽ではないと推測していたとしても、その債務額や右手形不渡りの事実を知らず、その代表者の、サンスターとの業務提携の話がまとまれば支払えるとの説明を信用しており、その後、被告に保証人としての責任を果たす意思がないことやマナテックの実情を知るや、速やかに本件(二)の契約を合意解除して賃料債務の発生を防止しているのであるから、本件(二)の契約に基づく七月分賃料等(新賃料等分七九万七四一九円)の請求が信義則に反するとはいえない。

六抗弁3について

1 抗弁3(一)の事実、再抗弁1(二)、(三)、(四)の七月分賃料等のうちの旧賃料等分二〇万九三二二円、(五)の事実は当事者間に争いがなく、再抗弁1(一)の事実が認められることは前記三1(二)のとおりであり、前記一、二に認定の本件(一)の契約、本件(二)の契約などからすると、原告らがマナテックに対し、再抗弁1(四)の七月分賃料等のうちの新賃料等分七九万七四一九円、同(六)の更新料九四万円の債権を有することは明らかである。

2 〈書証番号略〉及び原告光敏本人尋問の結果によれば、再抗弁2(一)の事実が認められ、同2(二)の処理は正当である。なお、被告は、保証金の償却費と更新料を同時に取得することは許されない旨主張するが、右償却費は前記二のようなものであるから、右主張は採用できない。

3  そうすると、抗弁3(一)の保証金返還債権は存在しないから、その余の点について判断するまでもなく、抗弁3は採用できない。

七結論

以上によれば、本訴請求は、六月分賃料等の内六六万七五〇〇円と七月分賃料等一〇〇万六七四一円の合計一六七万四二四一円及びこれに対する訴状送達の日の後であることが記録上明らかな平成四年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官山口博)

別紙物件目録〈省略〉

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